Rafael Nadal finally won the Wimbledon 2008

あまりに長い試合だったので、試合直後のアップは断念し、一日遅れのアップです。今年もウィンブルドン男子決勝は歴史に残る名勝負でした。去年の決勝は涙が出る程素晴らしい試合と書きましたが、今年もそれに引けを取らない真剣勝負で本当にテニスファンだけでなく見ている人すべてを魅了するような見事な試合内容だったと思います。フェデラーのウィンブルドン6連覇達成の偉業が見れなかったのは残念でしたが、2セットダウンからのフェデラーの後半の追い上げは見事でした。

試合前の放送で、1981年にウィンブルドン5連覇のボルグが6連覇をかけてマッケンローと対戦した時の様子がフラッシュバックとして放映され、その時は、マッケンローがボルグの6連覇を阻止して初優勝した時の瞬間の映像が流れ、マッケンローが現在のナダルが置かれた状況と非常に似ていたその時の自分の気持ち等を述懐していたのが興味深かったです。ここまで実力が拮抗してくると精神的な作用がかなり大きく作用してくる点をマッケンローも指摘していました。偉大なチャンピオンを自分が大舞台で倒せるとは簡単には信じられないわけで、そこをどう精神的に乗り越えるのかがナダルにとっての鍵となるわけです。

これまで私が聞いた試合前の識者予想では、ボルグがナダル、ベッカーがフェデラー、マッケンローがフェデラーという感じでしたが、誰もが僅差の試合になるという点では一致しており、大変な接線が予想されました。私個人の予想では、フェデラーが幾分有利かなと思っていました。試合直前の両者のインタビューでも、両者共慎重なコメントで本人達自身もかなりの激戦を覚悟して試合に臨んでいるように見えました。

フェデラーは今年のシングルスでは43勝8敗と、やや頂点を過ぎつつあるかなという成績ですが、ナダルやジョコビッチといった若手の伸びが素晴らしいためという見方をすれば、まだ頂点の調子からそれ程下ったわけではないとも言えます。事実、今年も決勝進出まで1セットも落としていませんし、ウィンブルドンではタイブレークで22勝3敗と土壇場では圧倒的な強さです。対するナダルも、決勝進出までに2回戦で1セット落とすのみと、芝コートでの大変な進歩を予想させる戦績です。

フェデラーにとってナダルは天敵であることは何回も書いていますが、これまでの両者の対戦成績は、ナダル11勝6敗 グランドスラムは4勝2敗で、唯一リードを保っているのがウィンブルドンでの2勝0敗で、ウィンブルドンだけは天敵と言えども譲らないというフェデラーの意地がかかっています。グランドスラムタイトルの決勝で同じ選手が顔を合わせるのは、フェデラー対ナダルが6回目で最多(アガシ対サンプラスとレンドル対ウィランダーが5回、ボルグ対コナーズとボルグ対マッケンローが4回)で、この記録からもいかに両者の実力が拮抗しているかがわかります。

大変長くなりますが、一応、試合の流れを追ってみたいと思います。

今年の芝コートの試合では12試合で2回しかブレークされていないフェデラーですが、第1セットの第3ゲームでいきなりブレイクを許してしまいます。しかし、その後のナダルのサービスゲームでブレイクバックするチャンスを作るところがさすがフェデラーでしたが、ナダルはブレイクを許しません。結果的には、このパターンが終始続くことになります。
5-4でナダルリードで迎えた第10ゲームでは、2回のセットポイントをしのいだものの2度のブレークチャンスを活かせず結局は第1セットを落とします。
ウィンブルドンでフェデラーが第1セットを落としたのは2004年決勝の対ロディック戦の時以来だそうで、その時はフェデラーが勝ったわけですが、今年はやはりここで不安がよぎります。
第2セットですんなりと自分のサービスゲームをキープした後の第2ゲームで今度はフェデラーがいきなりナダルのサービスゲームをブレイクし、いよいよ試合が盛り上がります。4-3でフェデラーがリードを保ち、このセットはフェデラーかなという雰囲気で迎えた第7ゲームで今度はナダルがフェデラーのサービスをブレイクバックした辺りで、少し雲行きが怪しくなってきます。
第8ゲーム途中までで自己エラーがフェデラーは12、ナダルは6と、フェデラーのミスが目立ちましたが、その第8ゲームでフェデラーのブレークチャンスが訪れます。しかし、それをものに出来ず、その次のサービスゲームでミスを連続し、0-40のトリプルブレイクチャンスをナダルに与えてしまい、ブレイクされてしまい、そこで第2セットの流れが完全にナダルになってしまいました。ナダルのセットポイントを凌いだ後のブレイクチャンスもスーパーラリーの後、フェデラーのミスショットで逃します。2回目のセットポイントもバックハンドのミスショットで第2セットも落としました。
フェデラーの2セットダウンからの逆転は、今までで3回あり、最後は2005年のマイアミで対ナダルだったようです。
第3セットに突入し、フェデラーが第1ゲームのサービスをキープしたところまでの両者の統計が、下記の通りで、ここまでは第1サービスの率が悪いのと自責点で自分のブレイクチャンスをものにできずに、ナダルが着実にブレイクチャンスをものにするのを助けてしまったという感じです。

(左の数字がフェデラー、右がナダル)
サービスエース 7 2
第1サーブ 63% 72%
ブレイク 1/6 3/4
勝ち点 30 17
エラー 15 10

第3ゲームでナダルが右足を痛めて倒れる場面があり、真っ向勝負を見たいファンとしてはちょっと冷やっとしましたがトレイナーのマッサージですぐに回復します。

ナダルサーブの第5ゲームでブレイクチャンスを逃した時点での統計で、ウィンブルドン決勝で対ナダル選(全て決勝)でブレイクチャンスをものに出来たのが、2006年は10分の6、2007年は8分の3、2008年はここまでで9分の1と明らかに今年はブレイクチャンスを活かせていないことが示されています。これが勝負の分かれ目の最大の要因でしょう。

5-4になったところで雨で中断。中断後も両者の調子は変わることなく、両者サービスキープでタイブレークにもつれ込みます。
タイブレークの統計では、フェデラーは25勝8敗(決勝では7章1敗)、ナダルは9勝5敗(決勝は1勝4敗)とこちらは完全にフェデラー有利の数字が示すがごとく、どちらかというと圧倒的な強さで第3セットは制します。

第4ゲーム突入後も、両者サービスをキープし続け、5-4で迎えたフェデラーサービスの第10ゲームは、0-30と緊迫感が走りますが、そこは王者の風格でその後のポイントをすべて連取してキープし、5-5に。その後も両者譲らず再びタイブレークになり試合の盛り上がりは絶頂を迎えます。最初はナダルのサービスでしたが、解説マッケンローも今回のウィンブルドンのトップ10ショットに文句なしで入ると言った素晴らしいラリーで始まり、まずは1点フェデラーが先行します。しかし、その後のフェデラーのサービス2本をナダルが両方取り、1-2に。ナダルは次の自分のサービス2本を取って1-4とし、優位に立ち、ナダル優勝の色が濃くなり始めます。次の2本のフェデラーのサービスで1点取れば、後は自分のサービスで2点取れば優勝ですから、圧倒的に優位に立つわけです。そして、その通り2本目のサーブをナダルが取り、2-5とし、ナダルのサービスが始まり、いよいよナダル優勝かという感じに見えたところから、またドラマが始まります。なんとナダルがダブルフォルトで1本目のサービスポイントを落としてしまいます。この辺が最初に言った「偉大なチャンピオンを自分が倒せる」と信じきることがいかに難しいかを物語っています。その次のサービスもフェデラーが取り、4-5と巻き返します。自分のサービス2本をしっかり決めて6-5とフェデラー再逆転でフェデラーのセットポイントでナダルにサービス権が移ります。しかし、長いラリーの末、フェデラーのフォアハンドのミスショットで6-6となります。次のナダルのサービスも結局はフェデラーのミスで点を落とし、6-7となりナダルのチャンピオンシップポイントに。ここでフェデラー伝家の宝刀とも言うべき127MPHのサーブを繰り出し7-7に。第4ゲームのタイブレークの窮地で自分の最高速129MPHにほぼ近いサーブを打てる所が並みの選手とは精神力が違うところで本当に素晴らしいです。しかし、次のフェデラーのサーブでのラリーで今度はナダルの素晴らしいショットが決まり、2度目のナダルのチャンピオンシップポイントの危機に陥ります。しかも、ナダルのサーブの番だったので、誰もがこれでフェデラーもおしまいかと思うような場面で、再度底力を発揮します。強烈なフォアハンドの深いクロスストロークを打ってネットに出た直後のナダルの右側をバックハンドからストレートに繰り出したパッシングショットで、しかもそこ以外に打つしかないような非常に狭い所を正確に抜く最高のショットで窮地を凌ぎ再び8-8に戻します。どうしてこんな素晴らしいショットがこういう場面で出せるのかというような素晴らしいショットでした。その後のナダルのサーブも攻略し、今度はフェデラーのセットポイントにして、自分のサービス2本打つ場面でファーストサーブを外しながらも、セカンドサーブを強烈なスライスで決めナダルがアウトして第4セットもフェデラーがタイブレークで制します。

これで2年連続のフルセットマッチに突入となりました。去年も書きましたが、フルセットマッチは、ナダルの方が得意で、これまでのフルセットマッチの両者の戦績は以下のようになります。
フェデラー 11勝10敗 (今年は1勝無敗)
ナダル 9勝3敗 (今年はフルセットマッチはなし)
去年の数字とほぼ変わらず、この2人の場合、通常なフルセットにならずに勝負がついていることがよくわかります。

ウィンブルドン特有の「第5セットはタイブレークなし」というルールで、最後は体力勝負のサドンデスなので、当然若いナダルに有利でしたから、ナダルのサービスをあまりブレークできていなかった状態で第5セットに入った時点でほぼナダル優勝の確率が高くなったと言えます。ウィンブルドンの記録的にも2セット先取されてから逆転勝ちしたのは、一番近い所で1927年のHenri Cochetという人以来だそうで、特にウィンブルドンでは至難の業であることが伺えます。

そうは言ってもまだまだ若いフェデラーですから、第5セットも両者互角の素晴らしいハイレベルなラリーの応酬が続きます。2-2で迎えたフェデラーのサービスゲームでジュースになったところで雨天中断が入ります。この中断でフェデラーが体力を少しでも回復できれば勝ち目があるかも知れないと思いましたが、それはナダルにとっても休息なので、あまり関係なかったようです。

試合再開後も両者まったく譲らず、4-4で迎えた第5ゲームで15-15となった時点で、両者の取った点数は178対178と、数字的にもまったく互角のゲームであることを示しています。5-5になった時点でウィンブルドン史上決勝戦での試合時間の最長記録を更新しました(結果的には4時間48分という記録)。余談ですが、これまでは82年のコナーズ対マッケンローが4時間16分、80年のボルグ対マッケンローが3時間53分が決勝戦の記録でした。これを見るとマッケンローがどれだけ当時観衆を沸かせていたかが想像できます(私も当時中学生で興奮して一部見た記憶がおぼろげながら残っています)。ちなみに読売の記事によると決勝戦のゲーム数62も歴代最多だそうです。

第13ゲームのフェデラーのサービスゲーム、30-30でのファーストサーブは128MPHと自己最高の129MPHに次ぐスピードでエースを決め、まだ力の衰えを見せない所は王者の意地という感じが再び伝わり鳥肌が立つような思いでした。その後ジュースにされながらも2回目のアドバンテージを取ってキープし7-6に。次のゲームも素晴らしいラリーの応酬でしたが結局はナダルもキープし、7-7に。予想通り体力勝負になってきたところで、次のフェデラーのサービスゲームでナダルがジュースに持ち込み最初のブレークポイントはかわしたものの、2度目のブレークポイントでネットプレイに出ようとした浅いベースからのストレートのショットがアウトとなり、7-8となってほぼ勝負がつきました。

しかし、最後までフェデラーは素晴らしいショットを見せてくれ、3度目のチャンピオンシップポイントをしのいだナダルのサービスへのリターンショットは本当に凄かったです。マッケンローも言葉に詰まり、一言「不可能!」と発することができただけの素晴らしいショットで王者の意地をまたも見せてくれました。この後、ナダルが2点連取し、ナダルの優勝が確定し、倒れ込んで感動に浸る間も短く、すぐに両親とコーチ、それとスペインの王室から観戦に来ていた人に挨拶に行っていました。

第5セットがタイブレーク勝負ならフェデラーが勝てたかもとも思いますが、まあルールですから仕方ありません。

それにしてもナダルのフォアハンドは素晴らしく、オープン、クロス、ストレートにと自在に打ち分けている感じでした。この辺は、去年からの大きな技術的な進歩ではないかと思います。準決勝の前に練習相手を努めたマッケンローが、ナダルのストロークが非常に重いということを証言していました。スピンのかかり具合も相当なものらしくフォアもバックも両方共かなりの重さであると言っていました。フェデラーの相手はしたことがないので直接の比較はできないけれども、おそらくフェデラーのストロークはここまで重くないはずだということも言っていました。

この日のフェデラーはファーストサーブの率があまり良くなかったのは反省点だと思いますが、その他のミスについては、少し気になる点があります。
というのも、ナダルのフォアハンドが更にパワーアップしており、しかもナダルは左利きなので、そのショットをバックハンドで返さないといけないフェデラーにとっては、技術的にも心理的にも非常に難しいショットになったのではないかと思われます。ミスの半分ぐらいはそのパターンでした。
フレンチオープンのときは、クレーで弾むため打点が高くなることがミスの原因と分析されていましたが、今回のウィンブルドンを見て、もしかしたらそのせいではなく、ナダルのトップスピンが更に激しさを増しており、フェデラーでさえもバックハンドでそれを強烈に返そうとするとミスに直結するというのが正しい見方かも知れません。
技術的には、ここを攻略できないとナダルに勝つのが難しくなってくるかも知れません。
それよりも、試合後のマッケンローのインタビューで、何回もブレイクチャンスがありながらものにできなかった点をつかれた時は、ナダルが非常に良かったからと言いながら、自分でもなぜブレイクできなかったが掴みきれていない様子で、かなり複雑な感情がこみあげてくるのを抑えられない様子だったので、マッケンローもハグをしてインタビューを終わる程で、精神的なダメージが少し心配です。少し休養して敗因を分析してきっと精神的にもさらに強くなってナダルの連覇を阻止するようなプレーを来年も見せて欲しいと願うばかりです。

最後に、今年の有名人の観戦客はあまり多くはテレビには映されず、下記の人ぐらいしか確認できませんでした。
ビョルン・ボルグ
マニュエル・サンタナ(スペイン人として初めて66年にウィンブルドン優勝)
Gavin Rosedale & Gwen Stefani

まずは、次のUSオープンでのフェデラーの活躍を楽しみにしたいと思います。

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